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天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば
明石の門より大和島見ゆ

歌の意味
遠い田舎からの長い道のりを、故郷を恋しく思いながら来ると、明石の海峡から大和の山々が見えてきた。
鑑賞
巻第三 雑歌 255

詞書は前の歌に続き「柿本朝臣人麻呂の羈旅の歌八首」
 羈旅の歌八首の七首目で、帰路の歌である。長い旅路を故郷を恋いながら上ってきて、明石海峡にさしかかると、海上に島のように大和の山並みが見えてきた喜びを歌っている。前歌の「家のあたり見ず」と呼応し、行きの別れの寂しさが帰りの喜びに転じている。人麻呂の旅の歌の代表作として名高い。原文の末尾には「一本に云ふ、家のあたり見ゆ」の異伝の注記があり、ここでは本文の「大和島見ゆ」を採った。
 羈旅の歌八首は、難波から瀬戸内海を西へ下り、また大和へ帰る船旅を、地名を連ねてたどる連作である。一首目の第二百四十九首は下の句が難訓である。
 作者の柿本人麻呂は、持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、長歌と短歌の両方にすぐれ、後世「歌聖」と仰がれた。官位は低く、その生涯には不明な点が多い。

 初句「天離る」 天のかなたに遠く離れている意で、「鄙」にかかる枕詞である。
 二句「鄙の長道ゆ」 鄙は都から遠い地方、長道は長い道のりである。「ゆ」は経由を表す格助詞である。
 三句「恋ひ来れば」 故郷を恋い慕いながらやって来ると、の意である。
 四句「明石の門より」 門は海峡のことで、前歌の「明石大門」と同じ場所を指している。
 結句「大和島見ゆ」 大和島は海上から島のように見える大和の山々である。前歌の結句「家のあたり見ず」に対して「見ゆ」と言い、帰郷の喜びで結んでいる。異伝では「家のあたり見ゆ」とする。

ひな:都から遠く離れた地方、田舎
ながち:長い道のり
と:海峡、瀬戸
やまとしま:海上から島のように見える大和の山々
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
燈火の明石大門に入らむ日や 漕ぎ別れなむ家のあたり見ず
次の歌
笥飯の海の庭よくあらし刈薦の 乱れて出づ見ゆ海人の釣船