旅にしてもの恋しきに山下の
赤のそほ船沖を漕ぐ見ゆ
- 歌の意味
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旅にあって何となく恋しく思っていると、山かげにいた朱塗りの船が沖を漕いでいくのが見える。
- 鑑賞
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巻第三 雑歌 270
詞書「高市連黒人の羈旅の歌八首」
黒人の羈旅の歌八首の一首目である。旅先で家を恋しく思っている時、朱塗りの官船が沖へ漕ぎ出していくのが目に入り、旅愁がいっそう募るさまを詠んでいる。遠ざかる船を見つめるまなざしに、黒人らしい孤独感がにじんでいる。
黒人の羈旅の歌八首は、摂津、尾張、近江、三河、山城など、各地の旅で詠まれた歌を集めた一連である。
作者の高市黒人は持統朝から文武朝にかけての歌人で、旅の歌にすぐれ、遠ざかるものを見つめる孤独なまなざしの叙景に独自の境地を開いた。伝は未詳である。
初句「旅にして」 旅にあって、の意である。
二句「もの恋しきに」 「もの」は何となく、の意を添える接頭語で、何となく恋しいのに、の意である。
三句「山下の」 「赤」にかかる枕詞とする説と、山のふもとの意とする説がある。
四句「赤のそほ船」 そほは赤土のことで、赤く塗った船、すなわち官船を指すとされる。
結句「沖を漕ぐ見ゆ」 沖を漕いでいくのが見える、の意で、遠ざかっていく船の姿で結び、旅の心細さを深めている。
そほぶね:赤土を塗った船。官船とされる
そほ:赤土、朱
- 作者
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高市黒人
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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人見ずは我が袖もちて隠さむを 焼けつつかあらむ着ずて来にけり
- 次の歌
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桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟 潮干にけらし鶴鳴き渡る