- 歌の意味
-
桜田の方へ鶴が鳴きながら渡っていく。年魚市潟は潮が引いたらしい。鶴が鳴きながら渡っていく。
- 鑑賞
-
巻第三 雑歌 271
詞書は前の歌に続き「高市連黒人の羈旅の歌八首」
黒人の羈旅の歌八首の二首目である。尾張の年魚市潟で、潮が引いた干潟へ餌を求めて鶴の群れが鳴きながら渡っていくさまを詠んでいる。二句と結句に同じ句を繰り返すことで、鶴の声と飛翔が絶え間なく続くさまを伝える、音楽的な叙景歌として名高い。年魚市潟は現在の名古屋市南部の干潟で、「愛知」の地名の由来とされる。
黒人の羈旅の歌八首は、摂津、尾張、近江、三河、山城など、各地の旅で詠まれた歌を集めた一連である。
作者の高市黒人は持統朝から文武朝にかけての歌人で、旅の歌にすぐれ、遠ざかるものを見つめる孤独なまなざしの叙景に独自の境地を開いた。伝は未詳である。
初句「桜田へ」 桜田は年魚市潟に臨む地名で、現在の名古屋市南区のあたりとされる。
二句「鶴鳴き渡る」 鶴が鳴きながら空を渡っていく、の意で、ここで句切れとなる。結句で同じ句を繰り返している。
三句「年魚市潟」 尾張国の干潟の名である。
四句「潮干にけらし」 潮が引いたらしい、の意で、「けらし」は「けるらし」のつづまった形で根拠のある推定を表す。鶴が渡る理由を推し量っている。
結句「鶴鳴き渡る」 二句を繰り返し、鶴の群れが次々と渡っていく情景を印象づけている。
たづ:鶴
あゆちがた:尾張国の干潟。現在の名古屋市南部
しほひ:潮が引くこと、干潮
- 作者
-
高市黒人
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
旅にしてもの恋しきに山下の 赤のそほ船沖を漕ぐ見ゆ
- 次の歌
-
四極山うち越え見れば笠縫の 島漕ぎ隠る棚なし小舟