古典和歌stream

住吉の得名津に立ちて見わたせば
武庫の泊りゆ出づる船人

歌の意味
住吉の得名津に立って見渡すと、武庫の港から漕ぎ出していく船人の姿が見える。
鑑賞
巻第三 雑歌 283

詞書「高市連黒人の歌一首」
 住吉の得名津の岸に立ち、海を隔てて遠く武庫の港から船出していく人々を眺めた歌である。大阪湾を大きく見渡す構図の中に、出ていく船人の小さな姿をとらえている。遠ざかっていくものに目を注ぐところに、黒人らしい旅情がうかがえる。
 作者の高市黒人は持統朝から文武朝にかけての歌人で、旅の歌にすぐれ、遠ざかるものを見つめる孤独なまなざしの叙景に独自の境地を開いた。伝は未詳である。

 初句「住吉の」 住吉は摂津国の地で、現在の大阪市住吉区のあたりである。
 二句「得名津に立ちて」 得名津は住吉にあった港とされる。
 三句「見わたせば」 見渡すと、の意で、広い湾を一望する視点を示している。
 四句「武庫の泊りゆ」 武庫の泊りは武庫川河口付近の港で、「ゆ」は起点を表す格助詞である。
 結句「出づる船人」 体言止めで、船出していく人々の姿を最後に置き、見渡した景の焦点としている。

えなつ:住吉にあった港の名
とまり:船が停泊する所、港
ふなびと:船に乗る人
作者
高市黒人
出典
万葉集
前の歌
つのさはふ磐余も過ぎず泊瀬山 いつかも越えむ夜は更けにつつ
次の歌
焼津辺に我が行きしかば駿河なる 阿倍の市道に逢ひし子らはも