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名ぐはしき印南の海の沖つ波
千重に隠りぬ大和島根は

歌の意味
名も美しい印南の海の沖の波の、幾重にも重なる向こうに隠れてしまった。大和の国土の山々は。
鑑賞
巻第三 雑歌 303

詞書「柿本朝臣人麻呂、筑紫国に下る時に、海路にして作る歌二首」
 筑紫へ下る船旅の途中、播磨の印南の海で、振り返る大和の山々が沖の波の彼方に隠れてしまったことを詠んだ歌である。故郷の見えなくなる瞬間を、幾重にも重なる波によって大きくとらえ、大和から遠ざかる寂しさを表している。倒置により結句に「大和島根」を置き、失われた故郷の姿を印象づけている。
 作者の柿本人麻呂は、持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、長歌と短歌の両方にすぐれ、後世「歌聖」と仰がれた。官位は低く、その生涯には不明な点が多い。

 初句「名ぐはしき」 名が美しい、評判の高い、の意で、「印南」をたたえている。
 二句「印南の海の」 印南の海は播磨国の印南野の沖の海で、現在の加古川市から明石市の沖にあたる。
 三句「沖つ波」 沖の波の意で、「つ」は「の」にあたる上代の格助詞である。
 四句「千重に隠りぬ」 千重は幾重にも重なることで、「ぬ」は完了である。波の幾重もの向こうに隠れてしまった、の意で、ここで句切れとなる。
 結句「大和島根は」 大和島根は、海上から島のように見える大和の国土である。倒置によって主語を最後に置き、見えなくなった故郷を強く印象づけている。

やまとしまね:海上から島のように見える大和の国土、山々
ちへ:幾重にも重なること
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
子らが家道やや間遠きをぬばたまの 夜渡る月に競ひあへむかも
次の歌
大君の遠の朝廷とあり通ふ 島門を見れば神代し思ほゆ