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富士の嶺に降り置く雪は六月の
十五日に消ぬればその夜降りけり

歌の意味
富士の嶺に降り積もっている雪は、六月十五日に消えると、その夜にまた降るのだという。
鑑賞
巻第三 雑歌 320

詞書は前の歌に続き「不尽山を詠む歌一首并せて短歌」の「反歌」
 富士山を詠んだ長歌に添えられた反歌の一首目である。真夏の六月十五日に雪が消えても、その夜にはもう新しい雪が降ると、富士の雪が一年中消えることがないさまを、土地の言い伝えのような形で表している。前の長歌の雄大な讃美を受け、富士の神秘性を具体的な話として示している。
 作者は題詞に記されていないが、次歌の左注に、この一群は高橋連虫麻呂の歌の中に出るもので、類が同じなのでここに載せる、とあり、虫麻呂の作とされる。
 作者の高橋虫麻呂は奈良時代の歌人で、常陸国に赴任していたとされ、東国の伝説を題材にした長歌を多く詠んだことから伝説歌人と呼ばれる。

 初句「富士の嶺に」 富士山の峰に、の意である。
 二句「降り置く雪は」 降り積もっている雪は、の意である。
 三句「六月の」 陰暦の六月で、真夏にあたる。
 四句「十五日に消ぬれば」 十五日は「もち」と読み、満月の日のことである。「消ぬれば」は消えてしまうと、の意で、八音の字余りである。
 結句「その夜降りけり」 「けり」は伝聞による詠嘆で、その夜にまた降るのだという、の意である。夏でも雪を絶やさない富士の神秘を語って結んでいる。

みなづき:陰暦六月
もち:満月の日、十五日
く:消える
作者
高橋虫麻呂
出典
万葉集
前の歌
田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ 富士の高嶺に雪は降りける
次の歌
富士の嶺を高み畏み天雲も い行きはばかりたなびくものを