見わたせば明石の浦に燭す火の
穂にぞ出でぬる妹に恋ふらく
- 歌の意味
-
見渡すと明石の浦で漁師がともす漁り火のように、はっきりと表に出てしまった。妻を恋しく思うこの気持ちが。
- 鑑賞
-
巻第三 雑歌 326
詞書「門部王、難波に在りて漁父の燭光を見て作る歌一首」と注「後に姓大原真人の氏を賜ふ」
難波に滞在していた時、夜の海に見える漁り火を見て、妻への恋しさを詠んだ歌である。遠くの明石の浦にともる漁火がはっきりと目立つように、胸に秘めていた恋心が表に出てしまったと述べている。上の三句は、漁火の炎の穂から「穂に出づ」を導く序詞で、夜の海の景と恋心とが鮮やかに重ねられている。
作者の門部王は奈良時代の王族で、出雲守、右京大夫などを歴任し、のちに大原真人の氏姓を賜った。
初句「見わたせば」 見渡すと、の意である。
二句「明石の浦に」 明石の浦は播磨国の海岸である。難波から海を隔てて見渡している。
三句「燭す火の」 漁師が夜の漁でともす火で、ここまでが「穂に出づ」を導く序詞である。
四句「穂にぞ出でぬる」 「穂に出づ」は炎の穂先が立つ意と、思いが表に現れる意とを掛けている。「ぞ」は係助詞で、「ぬる」の連体形と係り結びとなる。ここで句切れとなる。
結句「妹に恋ふらく」 「恋ふらく」は「恋ふ」のク語法で、恋しく思うことは、の意である。倒置によって、表に出たものが妻への恋であることを最後に明かしている。
ほにいづ:穂が出る。思いが表に現れる
- 作者
-
門部王
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
明日香川川淀さらず立つ霧の 思ひ過ぐべき恋にあらなくに
- 次の歌
-
海神の沖に持ち行きて放つとも うれむぞこれがよみがへりなむ