忘れ草我が紐に付く香具山の
古りにし里を忘れむがため
- 歌の意味
-
忘れ草を私の衣の紐に付ける。香具山のふもとの、昔住んだ故郷を忘れるために。
- 鑑賞
-
巻第三 雑歌 334
詞書は前の歌に続き「帥大伴卿の歌五首」
帥大伴卿の歌五首の四首目である。身につけると憂いを忘れるという忘れ草を衣の紐に付けて、募る故郷への思いを忘れようとしている。忘れようとすることが、かえって思いの深さを示している。前歌の「古りにし里」を受け、それが香具山のふもとの里であることを明らかにしている。
帥大伴卿の歌五首は、大宰府で奈良の都や故郷をしのんだ一連で、小野老や大伴四綱の歌に続けて配されている。
作者の大伴旅人は大伴安麻呂の子で、中納言、大宰帥を経て大納言に至り、天平三年(731)に没した。漢詩文の教養に富み、大宰帥として筑紫にあった時には、山上憶良らとともに歌の交流の中心となった。
初句「忘れ草」 忘れ草はヤブカンゾウのことで、身につけると憂いを忘れるとされた。
二句「我が紐に付く」 私の衣の紐に付ける、の意で、ここで句切れとなる。
三句「香具山の」 香具山は大和三山の一つで、そのふもとに旧都の里があった。
四句「古りにし里を」 昔住んだ古い里を、の意で、前歌の「古りにし里」をそのまま受けている。
結句「忘れむがため」 忘れるために、の意で、倒置によって忘れ草を付ける理由を後から示している。
わすれぐさ:ヤブカンゾウ。身につけると憂いを忘れるとされた
- 作者
-
大伴旅人
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
浅茅原つばらつばらにもの思へば 古りにし里し思ほゆるかも
- 次の歌
-
我が行きは久にはあらじ夢のわだ 瀬にはならずて淵にありこそ