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なかなかに人とあらずは酒壺に
なりにてしかも酒に染みなむ

歌の意味
中途半端に人間でいるよりは、いっそ酒壺になってしまいたい。そうすればいつも酒にしみこんでいられるだろう。
鑑賞
巻第三 雑歌 343

詞書は前の歌に続き「大宰帥大伴卿の酒を讃むる歌十三首」
 大宰帥大伴卿の酒を讃むる歌十三首の六首目である。なまじ人間でいるより、いっそ酒壺になって酒に浸っていたいと、奇抜な願いを述べている。中国の呉の鄭泉が、死後は陶工の家のそばに葬られ、土となって酒壺になりたいと願ったという故事を踏まえている。酒への愛着を極端な形で表した諧謔の歌である。
 讃酒歌十三首は、大宰府にあった旅人が酒をたたえることを通して、世の賢しらを退け、人生の憂いを慰める思いを詠んだ一連で、中国の竹林の七賢などの故事を踏まえている。
 作者の大伴旅人は大伴安麻呂の子で、中納言、大宰帥を経て大納言に至り、天平三年(731)に没した。漢詩文の教養に富み、大宰帥として筑紫にあった時には、山上憶良らとともに歌の交流の中心となった。

 初句「なかなかに」 なまじっか、中途半端に、の意の副詞である。
 二句「人とあらずは」 「ずは」は、〜しないで、〜するよりは、の意で、人間でいるよりは、の意である。
 三句「酒壺に」 酒を入れる壺に、の意である。
 四句「なりにてしかも」 「てしか」は願望の終助詞、「も」は詠嘆で、なってしまいたいものだ、の意である。ここで句切れとなる。
 結句「酒に染みなむ」 「な」は完了、「む」は推量で、酒にしみこんでいられるだろう、と願いの理由を述べて結んでいる。

さかつぼ:酒を入れる壺
しむ:しみこむ
作者
大伴旅人
出典
万葉集
前の歌
言はむすべ為むすべ知らず極まりて 貴きものは酒にしあるらし
次の歌
あな醜賢しらをすと酒飲まぬ 人をよく見ば猿にかも似む