託馬野に生ふる紫草衣に染め
いまだ着ずして色に出でにけり
- 歌の意味
-
託馬野に生える紫草で衣を染めて、まだ着ないうちに、その色が人目に表れてしまった。
- 鑑賞
-
巻第三 譬喩歌 395
詞書「笠女郎の大伴宿禰家持に贈る歌三首」
巻第三の譬喩歌の部に収められた歌である。笠女郎が大伴家持に贈った歌三首の一首目である。紫草で染めた衣をまだ着ないうちに色が表に出てしまったと、まだ契りを結ばないうちに、恋心が人に知られてしまったことを寓している。紫の鮮やかな色に、隠しきれない恋の思いが託されている。託馬野の所在には、近江の筑摩とする説と肥後とする説がある。
笠女郎が大伴家持に贈った歌三首は、紫草、草原、菅といった植物に託して恋心を表した一連である。
作者の笠女郎は奈良時代の女流歌人で、大伴家持に思いを寄せ、恋の歌を贈ったことで知られる。
初句「託馬野に」 託馬野は所在未詳の野である。
二句「生ふる紫草」 紫草は根から紫の染料をとる草である。
三句「衣に染め」 衣に染めて、の意である。
四句「いまだ着ずして」 まだ着ないうちに、の意で、まだ契りを結ばないことを寓している。
結句「色に出でにけり」 「色に出づ」は色が表に現れる意と、思いが人目に表れる意とを重ねている。「にけり」の気づきの詠嘆で、恋が知られてしまったことを嘆いて結んでいる。
むらさき:紫草。根から紫の染料をとる
いろにいづ:色が表に現れる。思いが人目に表れる
- 作者
-
笠女郎
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
標結ひて我が定めてし住吉の 浜の小松は後も我が松
- 次の歌
-
陸奥の真野の草原遠けども 面影にして見ゆといふものを