いつしかと待つらむ妹に玉梓の
言だに告げず去にし君かも
- 歌の意味
-
早く帰ってこないかと待っているだろう妻に、便りの一言さえ告げずに、去ってしまったあなたであることよ。
- 鑑賞
-
巻第三 挽歌 445
詞書は前の歌に続き「天平元年己巳、摂津国の班田の史生丈部竜麻呂の自ら経き死にし時に、判官大伴宿禰三中の作る歌一首并せて短歌」の「反歌」
丈部竜麻呂の死を悼んだ長歌の反歌の二首目である。故郷で夫の帰りを今か今かと待っているだろう妻に、一言の便りさえ残さずに死んでしまったと、残された妻を思いやり、死者を悼んでいる。前歌が死の突然さを嘆いたのに対し、ここでは遺された家族への思いを詠んでいる。
作者の大伴三中は奈良時代の官人で、摂津国の班田司の判官を務め、のちに遣新羅副使などに任じられた。
初句「いつしかと」 早く早くと、の意である。
二句「待つらむ妹に」 「らむ」は現在推量で、待っているだろう妻に、の意である。
三句「玉梓の」 玉梓は使者、便りのことで、「言」を導く枕詞として用いている。
四句「言だに告げず」 「だに」は、さえ、の意で、一言さえ告げずに、の意である。
結句「去にし君かも」 「去ぬ」は去る意、「かも」は詠嘆で、去ってしまったあなたよ、と哀惜を込めて結んでいる。
たまづさ:使者、便り
いぬ:去る、行ってしまう
- 作者
-
大伴三中
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
昨日こそ君はありしか思はぬに 浜松の上に雲にたなびく
- 次の歌
-
我妹子が見し鞆の浦のむろの木は 常世にあれど見し人ぞなき