古典和歌stream

我妹子が植ゑし梅の木見るごとに
心咽せつつ涙し流る

歌の意味
妻が植えた梅の木を見るたびに、胸がつまって、涙が流れる。
鑑賞
巻第三 挽歌 453

詞書は前の歌に続き「故郷の家に還り入りて即ち作る歌三首」
 帰宅して詠んだ三首の三首目で、一連を締めくくる歌である。妻が植えた梅の木を見るたびに、胸がつまり涙が流れると、妻の遺したものに触れて込み上げる悲しみを詠んでいる。前歌の二人で作った庭から、妻がひとりで植えた梅へと焦点を絞り、悲しみを一層深めている。
 故郷の家に還り入りて即ち作る歌三首は、奈良の家に帰り着いた旅人が、妻のいない家や庭を見て悲しんだ一連である。題詞に作者名は記されないが、前の五首に続く旅人の作である。
 作者の大伴旅人は大伴安麻呂の子で、中納言、大宰帥を経て大納言に至り、天平三年(731)に没した。漢詩文の教養に富み、大宰帥として筑紫にあった時には、山上憶良らとともに歌の交流の中心となった。

 初句「我妹子が」 妻が、の意である。
 二句「植ゑし梅の木」 妻が植えた梅の木で、妻の形見となっている。
 三句「見るごとに」 見るたびに、の意である。
 四句「心咽せつつ」 「咽す」はむせぶ、胸がつまる意で、胸がつまりながら、の意である。
 結句「涙し流る」 「し」は強意で、涙が流れる、と込み上げる悲しみで結んでいる。

むす:むせぶ、胸がつまる
作者
大伴旅人
出典
万葉集
前の歌
妹としてふたり作りし我が山斎は 木高く茂くなりにけるかも
次の歌
はしきやし栄えし君のいましせば 昨日も今日も我を召さましを