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留めえぬ命にしあれば敷栲の
家ゆは出でて雲隠りにき

歌の意味
引き留めることのできない命であったので、住み慣れた家を出て、雲に隠れるように亡くなってしまった。
鑑賞
巻第三 挽歌 461

詞書は前の歌に続き「七年乙亥、大伴坂上郎女の尼理願の死去を悲嘆して作る歌一首并せて短歌」の「反歌」
 大伴家に身を寄せていた新羅の尼、理願の死を悲しんだ長歌に添えられた反歌である。引き留めようのない命であったので、住み慣れた家を出て亡くなってしまったと、理願の死を静かに悼んでいる。左注によれば、理願は新羅から帰化して大納言大伴安麻呂の家に長く住んでいたが、天平七年(735)に病で亡くなった。その時、郎女の母の石川命婦は療養のため有間の温泉に行っていて葬儀に立ち会えず、郎女がひとりで葬送を終え、この歌を作って温泉にいる母に贈ったという。
 作者の大伴坂上郎女は大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹、大伴家持の叔母にあたる。大伴家の家刀自として一族を支え、万葉集に多くの歌を残した女流歌人である。

 初句「留めえぬ」 引き留めることのできない、の意である。
 二句「命にしあれば」 「し」は強意で、命であるので、の意である。
 三句「敷栲の」 「家」「枕」などにかかる枕詞である。
 四句「家ゆは出でて」 「ゆ」は、から、の意で、住み慣れた家から出て、の意である。長く住んだ大伴家を離れたことを示している。
 結句「雲隠りにき」 「雲隠る」は死を婉曲にいう語、「にき」は完了と過去で、亡くなってしまった、と結んでいる。

くもがくる:雲に隠れる。死を婉曲にいう
作者
大伴坂上郎女
出典
万葉集
前の歌
見れど飽かずいましし君が黄葉の うつりい行けば悲しくもあるか
次の歌
今よりは秋風寒く吹きなむを いかにかひとり長き夜を寝む