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秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑし
やどのなでしこ咲きにけるかも

歌の意味
秋になったらこれを見ながら私をしのんでくださいと、妻が植えた庭のなでしこが咲いたことだ。
鑑賞
巻第三 挽歌 464

詞書「又家持の砌の上の瞿麦の花を見て作る歌一首」
 軒下の石畳のあたりに咲いたなでしこの花を見て詠んだ歌である。秋になったらこれを見て私をしのんでほしいと言って亡き妻が植えたなでしこが、今咲いたと、妻の遺した花に亡き人を重ねて悲しんでいる。妻が自らの死を予感していたかのような言葉が、いっそう哀切である。
 天平十一年(739)夏六月から秋にかけて、大伴家持が亡くなった妾を悼んで詠んだ一連の挽歌である。
 作者の大伴家持は大伴旅人の子で、奈良時代の官人である。越中守、因幡守などを経て中納言に至り、延暦四年(785)に没した。万葉集の編纂に深く関わったとされる。

 初句「秋さらば」 秋になったら、の意である。
 二句「見つつ偲へと」 見ながらしのんでくださいと、の意で、妻の言葉を引いている。
 三句「妹が植ゑし」 妻が植えた、の意で、六音の字余りである。
 四句「やどのなでしこ」 家の庭のなでしこ、の意である。
 結句「咲きにけるかも」 咲いたことだ、の意で、妻の言葉どおりに花が咲いたことへの感慨で結んでいる。

やど:家の庭
しのふ:思い慕う、しのぶ
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
長き夜をひとりや寝むと君が言へば 過ぎにし人の思ほゆらくに
次の歌
うつせみの世は常なしと知るものを 秋風寒み偲ひつるかも