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君待つと我が恋ひ居れば我が宿の
簾動かし秋の風吹く

歌の意味
あなたを待って私が恋しく思っていると、わが家の簾を動かして秋の風が吹いてくる。
鑑賞
巻第四 相聞 488

詞書「額田王の近江天皇を思ひて作る歌一首」
 近江天皇(天智天皇)を思って作った歌である。君の訪れを待ち焦がれていると、簾がかすかに揺れて一瞬その人の訪れかと思わせ、実は秋風であったという情景を詠む。簾の動きに寄せる期待と、それが風にすぎなかった寂しさとが、直接言わずとも伝わってくる。六朝の閨怨詩に通う趣があるとも指摘され、万葉集の中でも洗練された恋歌として名高い。
 次歌の鏡王女の歌と一対をなし、この二首は巻第八の第千六百六首と第千六百七首にも重ねて収められている。
 作者の額田王は、七世紀後半を代表する女流歌人である。大海人皇子(天武天皇)との間に十市皇女をもうけ、のちに天智天皇に仕えたと伝えられる。

 初句「君待つと」の「と」は「と思って」の意を含む格助詞で、待つ心を最初に示す。巻頭の第四百八十四首に続いて「待つ」ことを詠み、本巻の大きな主題を受け継いでいる。
 二句「我が恋ひ居れば」の「ば」は已然形について順接の確定条件を表し、恋しく思っているちょうどそのときにの意となる。
 三句「我が宿の」は、わが家のの意である。二句の「我が」と重ねて、待つ者の側の空間であることを強調する。
 四句「簾動かし」は、簾を揺り動かしての意である。人の訪れを思わせる動きで、期待を一瞬ふくらませる働きをもつ。
 結句「秋の風吹く」は、簾を動かしたのが君ではなく秋風であったことを明かす。終止形で静かに言い切り、寂しさを余韻として残す。次歌の鏡王女の歌が「風をだに」と、この風を受けて応じている。

やど:家、住まい。また家の戸口や庭先
作者
額田王
出典
万葉集
前の歌
近江道の鳥篭の山なる不知哉川 日のころごろは恋ひつつもあらむ
次の歌
風をだに恋ふるは羨し風をだに 来むとし待たば何か嘆かむ