置きていなば妹恋ひむかも敷栲の
黒髪敷きて長きこの夜を
- 歌の意味
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私があなたを置いて行ってしまったら、あなたは恋しく思うだろうか。黒髪を床に敷いて独り寝をする、この長い夜を。
- 鑑賞
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巻第四 相聞 493
詞書は前の歌に続き「田部忌寸櫟子の大宰に任けらるる時の歌四首」
前歌の訴えに答えるように置かれた、旅立つ田部櫟子自身の歌である。自分が置いて行ってしまえば、残された妻は長い夜に黒髪を床に敷いて独り寝をしながら恋い慕うだろうと思いやる。前歌の「置きていかにせむ」を受けて「置きていなば」と歌い出し、別れを惜しむ男女が言葉を交わしている。
原文の末尾には作者名として「田部忌寸櫟子」の小書きがあり、この歌の作者を示している。
作者の田部櫟子は、奈良時代初めの官人で、大宰府の官人として筑紫に赴任した。「忌寸」は姓である。
初句「置きていなば」は、置いて行ってしまったらの意である。「いぬ」は去るの意の動詞で、「ば」は未然形について仮定を表す。六音の字余りで、前歌の結句の「置く」を受けている。
二句「妹恋ひむかも」の「む」は推量、「かも」は疑問を含む詠嘆である。残される妻の心を思いやり、ここで切れる二句切れとなる。
三句「敷栲の」は、寝具の栲を敷く意から「枕」「床」などにかかる枕詞である。ここでは黒髪を敷いて寝る床を思わせ、四句の「敷きて」と音を重ねている。
四句「黒髪敷きて」は、長い黒髪を床に敷き広げての意で、独り寝の姿を具体的に描く。
結句「長きこの夜を」は、長い夜を示すとともに、別れた後に続く時間の長さを感じさせる。倒置によって二句に返り、恋い慕う時を示して結ぶ。
いぬ:去る、行ってしまう
しきたへ:寝床に敷く栲(楮などの繊維で織った布)
- 作者
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田部櫟子
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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衣手に取りとどこほり泣く子にも まされる我れを置きていかにせむ
- 次の歌
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我妹子を相知らしめし人をこそ 恋のまされば恨めしみ思へ