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いにしへにありけむ人も我がごとか
妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ

歌の意味
昔の世にいた人も、私のように、妻を恋しく思いながら眠れずにいたのだろうか。
鑑賞
巻第四 相聞 497

詞書は前の歌に続き「柿本朝臣人麻呂の歌四首」
 遠い昔の人も、自分と同じように妻を恋しく思って眠れない夜を過ごしたのだろうかと思いやる歌である。自分一人の恋の苦しみを、時を超えた人間共通の思いへと広げてとらえようとしている。前歌が目の前の風物に託して恋を歌ったのに対し、本歌は過去の人々へと思いを向け、次歌がその問いに答える形になっている。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇、文武天皇の時代に活躍した宮廷歌人で、長歌、短歌ともにすぐれ、後世に歌聖と仰がれた。

 初句「いにしへに」は、遠い昔にの意である。歌の視点を一気に過去へと移している。
 二句「ありけむ人も」の「けむ」は過去推量の助動詞で、いたであろう人もの意となる。
 三句「我がごとか」は、私のようにの意で、係助詞「か」が疑問を表す。結びは結句の「けむ」の連体形である。
 四句「妹に恋ひつつ」の「つつ」は継続を表し、妻を恋い続けながらの意となる。
 結句「寐ねかてずけむ」の「寐ぬ」は眠る、「かてず」はできないの意で、眠ることができなかったのだろうかと、「か」を受けて連体形で結ぶ。次歌の「いにしへの人ぞまさりて」がこの問いに答えている。

いぬ:眠る、寝る
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
み熊野の浦の浜木綿百重なす 心は思へど直に逢はぬかも
次の歌
今のみのわざにはあらずいにしへの 人ぞまさりて音にさへ泣きし