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玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に
物言はず来にて思ひかねつも

歌の意味
衣ずれのようなざわめきが静まって、家の妻に何も言わずに出て来てしまったので、恋しさに耐えられないことだ。
鑑賞
巻第四 相聞 503

詞書は前の歌に続き「柿本朝臣人麻呂の歌三首」
 旅立ちのあわただしさの中で、家の妻にろくに言葉もかけずに出て来てしまったことを悔やみ、恋しさに堪えられないと詠む歌である。「さゐさゐ」という擬音語で出立の騒がしさを表し、その後に訪れた静けさの中で改めて妻を思う心の動きを描いている。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇、文武天皇の時代に活躍した宮廷歌人で、長歌、短歌ともにすぐれ、後世に歌聖と仰がれた。

 初句「玉衣の」は、美しい衣のの意で、衣ずれの音から二句の「さゐさゐ」にかかる枕詞とされる。
 二句「さゐさゐしづみ」の「さゐさゐ」は、衣ずれや人のざわめきを表す擬音語で、「しづみ」はそれが静まっての意である。出立の騒ぎが落ち着いたことを表すと解される。
 三句「家の妹に」は六音の字余りで、家に残した妻にの意となる。
 四句「物言はず来にて」は、言葉もかけずに来てしまっての意である。「来にて」は「来」に完了の助動詞「ぬ」の連用形と接続助詞「て」がついた形で、字余りとなっている。
 結句「思ひかねつも」の「かね」はできないの意の補助動詞、「つ」は完了、「も」は詠嘆で、恋しさに耐えきれないことだの意となる。

たまきぬ:美しい衣。「玉」は美称
さゐさゐ:衣ずれの音や人のざわめき
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
夏野行く牡鹿の角の束の間も 妹が心を忘れて思へや
次の歌
君が家に我が住坂の家道をも 我れは忘れじ命死なずは