古典和歌stream

衣手の別かる今夜ゆ妹も我れも
いたく恋ひむな逢ふよしをなみ

歌の意味
袖を分かって別れる今夜から、妻も私も、ひどく恋しく思うことだろう。逢う手立てがないので。
鑑賞
巻第四 相聞 508

詞書「三方沙弥の歌一首」
 別れの夜を迎え、今夜から妻も自分も互いにひどく恋しく思うだろう、逢う手立てもないのだからと詠む歌である。袖を交わして寝た二人が袖を分かって別れることを「衣手の別かる」と表し、別れの切なさを双方の思いとして描いている。
 作者の三方沙弥は、奈良時代初めの人で、のちに還俗した山田史御方と同一人物とする説がある。「沙弥」は出家して間もない僧を指す語である。

 初句「衣手の」は「別かる」にかかる枕詞で、共寝した二人の袖が分かれることからいう。
 二句「別かる今夜ゆ」の「ゆ」は起点を表す上代の格助詞で、別れる今夜からの意となる。
 三句「妹も我れも」は六音の字余りで、妻も私もと双方を並べて示し、恋しさを二人のものとして描いている。
 四句「いたく恋ひむな」の「む」は推量、「な」は詠嘆の終助詞で、ひどく恋しく思うことだろうの意となる。ここで切れる四句切れである。
 結句「逢ふよしをなみ」は、逢う手立てがないのでの意である。「〜を〜み」は原因や理由を表す語法で、倒置によって恋しさの理由を後に示している。

よし:手立て、方法
しやみ:出家して間もない修行中の僧
作者
三方沙弥
出典
万葉集
前の歌
敷栲の枕ゆくくる涙にぞ 浮寝をしける恋の繁きに
次の歌
白栲の袖解き交へて帰り来む 月日を数みて行きて来ましを