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我が背子が着せる衣の針目おちず
入りにけらしも我が心さへ

歌の意味
あなたが着ておいでの衣の縫い目の一つ一つに、残らず入り込んでしまったらしい。私の心までも。
鑑賞
巻第四 相聞 514

詞書「阿倍女郎の歌一首」
 恋人の着ている衣を自分が縫ったことを背景に、その縫い目の一つ一つに自分の心まで縫い込まれてしまったらしいと詠む歌である。衣を縫う作業に恋心を重ね、いつも恋人に寄り添っていたいという思いを細やかに表している。次歌以降は中臣東人と阿倍女郎の贈答が続き、衣や紐、糸といった縫い物にかかわる語が一連の歌を結びつけている。
 作者の阿倍女郎は、奈良時代初めごろの女性歌人で、阿倍氏の出身とみられるが、伝は未詳である。

 初句「我が背子が」は、私の夫がの意で、恋人への親しみを込めて呼ぶ。
 二句「着せる衣の」の「着せる」は「着る」の尊敬語「着す」に存続の「り」がついた形で、着ておいでの衣のの意となる。
 三句「針目おちず」は、縫い目の一つ一つ漏れなくの意である。六音の字余りで、細かな縫い目を丹念にたどる思いを伝える。
 四句「入りにけらしも」の「けらし」は過去の推定を表し、入り込んでしまったらしいの意となる。ここで切れる四句切れである。
 結句「我が心さへ」の「さへ」は添加の副助詞で、糸だけでなく私の心までもの意となる。倒置によって心を最後に置き、思いの深さを印象づけている。

はりめ:縫い目
けす:「着る」の尊敬語
作者
阿倍女郎
出典
万葉集
前の歌
大原のこのいち柴のいつしかと 我が思ふ妹に今夜逢へるかも
次の歌
ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと 為むすべ知らに音のみしぞ泣く