我が持てる三相に搓れる糸もちて
付けてましもの今ぞ悔しき
- 歌の意味
-
私の持っている三本縒りの丈夫な糸で、紐を付けておけばよかったのに。今となっては悔しいことだ。
- 鑑賞
-
巻第四 相聞 516
詞書「阿倍女郎の答ふる歌一首」
前歌で紐が切れたと嘆く中臣東人に答えた歌である。私の持っている三本縒りの丈夫な糸で紐を付けておけばよかったと、今さらながら悔しがってみせる。不吉な前兆を嘆く相手に対し、糸の丈夫さという実際的な話題で応じ、その不安をやわらげようとする機知が感じられる。
作者の阿倍女郎は、奈良時代初めごろの女性歌人で、阿倍氏の出身とみられるが、伝は未詳である。
初句「我が持てる」は、私の持っているの意で、「る」は存続の助動詞「り」の連体形である。
二句「三相に搓れる」は、三本の糸を縒り合わせたの意で、切れにくい丈夫な糸であることを示す。
三句「糸もちて」は、その糸を用いての意である。前歌の「紐」に対して「糸」で応じ、衣にかかわる語で贈答を結んでいる。
四句「付けてましもの」の「まし」は反実仮想の助動詞で、付けておけばよかったのにの意となる。ここで切れる四句切れである。
結句「今ぞ悔しき」は、係助詞「ぞ」で「今」を強め、連体形「悔しき」で結ぶ。今となっては悔しいと、実現しなかったことを惜しんでいる。
みつあひ:三本の糸を縒り合わせること
よる:糸をねじり合わせる
- 作者
-
阿倍女郎
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと 為むすべ知らに音のみしぞ泣く
- 次の歌
-
神木にも手は触るといふをうつたへに 人妻といへば触れぬものかも