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庭に立つ麻手刈り干し布曝す
東女を忘れたまふな

歌の意味
庭に生い立つ麻を刈って干し、布をさらして働く東国の女を、どうかお忘れにならないでください。
鑑賞
巻第四 相聞 521

詞書「藤原宇合大夫の遷任して京に上る時に、常陸娘子の贈る歌一首」
 常陸国の国司であった藤原宇合が任を終えて都へ帰るときに、常陸の娘子が贈った歌である。麻を刈り干し、布をさらす東国の女のつつましい暮らしぶりを自ら描き、そのような私をお忘れにならないでくださいと願う。都へ帰る貴人と地方の女性との身分の隔たりを踏まえた、控えめながら切実な別れの歌である。
 作者の常陸娘子は、常陸国の女性で、名は伝わらない。藤原宇合は藤原不比等の子で、常陸守を務めた。

 初句「庭に立つ」は、庭に生い立つの意で、家の庭で育てた麻を示す。
 二句「麻手刈り干し」の「麻手」は麻のことで、刈り取って干す作業をいう。東国の女の日々の労働を具体的に描いている。
 三句「布曝す」は、織った布を水で洗い日にさらして白くすることをいう。初句からここまでが、四句の「東女」の暮らしを具体的に説明している。
 四句「東女を」は、東国の女をの意で、自らを都の人と隔たった地方の女としてへりくだっている。
 結句「忘れたまふな」の「たまふ」は尊敬の補助動詞、「な」は禁止の終助詞で、お忘れにならないでくださいと願って結ぶ。

あさで:麻
さらす:布を水で洗い、日に当てて白くする
あづまをみな:東国の女
作者
常陸娘子
出典
万葉集
前の歌
ひさかたの雨も降らぬか雨障み 君にたぐひてこの日暮らさむ
次の歌
娘子らが玉櫛笥なる玉櫛の 神さびけむも妹に逢はずあれば