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佐保川の小石踏み渡りぬばたまの
黒馬来る夜は年にもあらぬか

歌の意味
佐保川の小石を踏んで渡り、あなたの黒馬がやって来る夜は、一年中続いてくれないものか。
鑑賞
巻第四 相聞 525

詞書「大伴郎女の和ふる歌四首」
 藤原麻呂の三首に答えた大伴郎女の四首の最初の歌である。佐保川の小石を踏み渡って黒馬に乗ったあなたが訪れる夜が、一年中続いてほしいと願う。麻呂の第五百二十三首が「年にも」と、一年でも逢わずに過ごす人のことを言ったのを受け、同じ「年にも」の語で、一年中毎夜でも来てほしいと切り返している。
 左注によれば、郎女は佐保大納言大伴安麻呂の娘で、はじめ穂積皇子に嫁いで寵愛を受け、皇子の没後に藤原麻呂に求婚された。坂上の里に住んだことから坂上郎女と呼ばれた。
 作者の大伴坂上郎女は、大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹にあたる。万葉集に多くの歌を残し、女流歌人として重んじられている。

 初句「佐保川の」は、奈良の都の北を流れる佐保川で、郎女の住む佐保の地を示す。
 二句「小石踏み渡り」は八音の字余りで、川の小石を踏んで渡っての意である。恋人が川を渡って訪れる様子を具体的に描く。
 三句「ぬばたまの」は「黒」「夜」などにかかる枕詞で、ここでは四句の「黒馬」を導く。
 四句「黒馬来る夜は」は、黒い馬に乗ってあなたが来る夜はの意である。馬の毛色まで描くことで、待ちわびる訪れを鮮やかに思い描いている。
 結句「年にもあらぬか」の「ぬか」は願望を表し、一年中でもあってほしいの意となる。贈歌の「年にも」と同じ語で応じている。

くろま:黒毛の馬
ぬばたま:ヒオウギの黒い実。「黒」「夜」などにかかる枕詞となる
作者
大伴坂上郎女
出典
万葉集
前の歌
むし衾なごやが下に伏せれども 妹とし寝ねば肌し寒しも
次の歌
千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波 やむ時もなし我が恋ふらくは