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梓弓爪引く夜音の遠音にも
君が御幸を聞かくしよしも

歌の意味
梓弓の弦を爪で引き鳴らす夜の音が遠くに聞こえるように、遠くからでも、あなたのお出ましのことを聞くのはうれしいことだ。
鑑賞
巻第四 相聞 531

詞書「海上王の和へ奉る歌一首 志貴皇子の女なり」
 前歌の聖武天皇の御歌に和して奉った歌である。夜に梓弓の弦を爪で鳴らす音がかすかに遠く聞こえるように、遠くからでも天皇のお出ましの噂を聞くのはうれしいと詠む。天皇の信頼の言葉に対し、身の程をわきまえた慎ましい喜びで応えている。
 作者の海上女王は、詞書の注によれば志貴皇子の娘である。聖武天皇の後宮に仕えた女性とみられる。

 初句「梓弓」は、梓の木で作った弓で、弦を鳴らすことから二句の「爪引く」に続く。
 二句「爪引く夜音の」は、弓の弦を爪で引き鳴らす夜の音のの意である。魔よけのために弦を鳴らす鳴弦の習わしを背景にしているとみられ、初句と合わせて三句の「遠音」を導く序詞となる。
 三句「遠音にも」は、遠くからの音としてでもの意で、かすかな噂として伝わることをいう。
 四句「君が御幸を」は、あなたのお出ましをの意で、「御幸」は天皇の外出をいう。
 結句「聞かくしよしも」の「聞かく」は「聞く」のク語法、「し」は強意、「も」は詠嘆で、聞くことはうれしいことだの意となる。

あづさゆみ:梓の木で作った弓
つまびく:弓の弦を指先で引き鳴らす
みゆき:天皇の外出
作者
海上女王
出典
万葉集
前の歌
赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし 妹が心は疑ひもなし
次の歌
うちひさす宮に行く子をま悲しみ 留むれば苦し遣ればすべなし