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出でていなむ時しはあらむをことさらに
妻恋しつつ立ちていぬべしや

歌の意味
出て行く時はほかにもあるだろうに、わざわざ妻を恋しがりながら、今出て行ってよいものか。
鑑賞
巻第四 相聞 585

詞書「大伴坂上郎女の歌一首」
 帰ろうとする男を引き留める歌で、出て行く時はほかにもあるだろうに、わざわざ妻を恋しがりながら今出て行ってよいものかと詠む。帰る先の妻を思う男に対する恨みを、戯れを交えて表している。宴席などで、帰ろうとする客を引き留める座興の歌とみる説もある。
 作者の大伴坂上郎女は、大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹にあたる。万葉集に多くの歌を残し、女流歌人として重んじられている。

 初句「出でていなむ」は六音の字余りで、出て行ってしまおうとするの意である。
 二句「時しはあらむを」は、時はほかにもあるだろうにの意で、「を」は逆接の接続助詞である。
 三句「ことさらに」は、わざわざ、特にの意である。
 四句「妻恋しつつ」は、妻を恋しく思いながらの意で、帰ろうとする男の心を言い当てている。
 結句「立ちていぬべしや」の「べし」は当然、「や」は反語で、出て行ってよいものか、いやよくないの意となる。

つまごひ:妻を恋い慕うこと
作者
大伴坂上郎女
出典
万葉集
前の歌
春日山朝立つ雲の居ぬ日なく 見まくの欲しき君にもあるかも
次の歌
相見ずは恋ひずあらましを妹を見て もとなかくのみ恋ひばいかにせむ