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相見ずは恋ひずあらましを妹を見て
もとなかくのみ恋ひばいかにせむ

歌の意味
逢わなければ恋しく思わずにいられただろうに、あなたを見てしまって、わけもなくこれほど恋しく思うばかりなら、どうしたらよいのだろう。
鑑賞
巻第四 相聞 586

詞書「大伴宿祢稲公の田村大嬢に贈る歌一首 大伴宿奈麻呂卿の女なり」
 大伴稲公が田村大嬢に贈った歌として載るが、左注によれば姉の坂上郎女が稲公に代わって作ったものである。逢わなければ恋しく思わずにすんだのに、あなたを見てしまったためにこれほど恋しく思うばかりで、どうしたらよいのかと嘆く。代作ではあるが、恋の始まりの苦しみを素直な言葉で表している。
 作者の大伴坂上郎女は、大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹にあたる。大伴稲公は旅人と坂上郎女の弟で、田村大嬢は大伴宿奈麻呂の娘である。

 初句「相見ずは」の「ずは」は打消の仮定を表し、逢わなかったならばの意となる。
 二句「恋ひずあらましを」の「まし」は反実仮想の助動詞で、恋しく思わずにいられただろうにの意となる。
 三句「妹を見て」は、あなたを見てしまっての意で、実際に逢ってしまったことを示す。
 四句「もとなかくのみ」の「もとな」はわけもなく、むやみにの意で、これほどまでにむやみにの意となる。
 結句「恋ひばいかにせむ」は八音の字余りで、恋しく思うならどうしたらよいのだろうの意となる。

あひみる:互いに顔を合わせる、逢う
作者
大伴坂上郎女
出典
万葉集
前の歌
出でていなむ時しはあらむをことさらに 妻恋しつつ立ちていぬべしや
次の歌
我が形見見つつ偲はせあらたまの 年の緒長く我れも偲はむ