相思はぬ人を思ふは大寺の
餓鬼の後方に額つくごとし
- 歌の意味
-
私を思ってくれない人を思うのは、大寺の餓鬼の像を、それも後ろから額をついて拝むようなものだ。
- 鑑賞
-
巻第四 相聞 608
詞書は前の歌に続き「笠女郎の大伴宿祢家持に贈る歌二十四首」
思ってくれない人を思うのは、大寺の餓鬼の像を、しかもその後ろから額ずいて拝むようなものだと、報われない恋をなじる歌である。仏教の餓鬼の像を持ち出した大胆な比喩で、痛烈な皮肉の中に自嘲もこもる。二十四首の中でも特に知られた一首である。
作者の笠女郎は、奈良時代の女流歌人で、大伴家持に多くの恋の歌を贈った。伝は未詳である。
初句「相思はぬ」は六音の字余りで、互いに思い合わないの意である。
二句「人を思ふは」は、私を思ってくれない人を思うことはの意である。
三句「大寺の」は、大きな寺のの意で、当時の奈良の大寺を思わせる。
四句「餓鬼の後方に」は、餓鬼の像の後ろにの意である。餓鬼を拝んでも何の利益もないうえに、その後ろから拝むという二重の無益さを示している。
結句「額つくごとし」は、額を地につけて拝むようなものだの意で、何の甲斐もないことのたとえとして結ぶ。
がき:仏教で、飢えと渇きに苦しむ亡者。寺にその像が置かれた
ぬかづく:額を地につけて拝む
- 作者
-
笠女郎
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
皆人を寝よとの鐘は打つなれど 君をし思へば寐ねかてぬかも
- 次の歌
-
心ゆも我は思はずきまたさらに 我が故郷に帰り来むとは