松の葉に月はゆつりぬ黄葉の
過ぐれや君が逢はぬ夜ぞ多き
- 歌の意味
-
松の葉に月は移って行ってしまった。もみじ葉が散り過ぎるように、あなたの心も移ってしまったからか、逢ってくれない夜が多いことだ。
- 鑑賞
-
巻第四 相聞 623
詞書「池辺王の宴に誦む歌一首」
池辺王が宴席で誦詠した歌である。松の葉の間を月が移って時が過ぎていく中で、心が離れたのか逢ってくれない夜が多いと恨む。女性の立場で詠まれており、宴の場で古歌や他人の歌を誦したものとも考えられる。初句の「松」に「待つ」を響かせているともされる。
作者の池辺王は、葛野王の子で、大友皇子の孫にあたるとされる。淡海三船の父である。
初句「松の葉に」は、松の葉にの意である。「松」に「待つ」の意を響かせ、待つ身の心を示すとされる。
二句「月はゆつりぬ」の「ゆつる」は移るの意、「ぬ」は完了で、月は移って行ってしまったの意となる。ここで切れる二句切れである。
三句「黄葉の」は、もみじ葉が散り過ぎる意から「過ぐ」にかかる枕詞である。
四句「過ぐれや君が」の「過ぐれや」は已然形に「や」がついた疑問の条件で、心が移り過ぎたからだろうかの意となる。結びは結句の「多き」である。
結句「逢はぬ夜ぞ多き」は八音の字余りで、逢ってくれない夜が多いことだの意である。「ぞ」を受けて連体形「多き」で結ぶ。
ゆつる:移る
もみちば:紅葉した葉
- 作者
-
池辺王
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
草枕旅に久しくなりぬれば 汝をこそ思へな恋ひそ我妹
- 次の歌
-
道に逢ひて笑まししからに降る雪の 消なば消ぬがに恋ふといふ我妹