古典和歌stream

うはへなきものかも人はしかばかり
遠き家路を帰さく思へば

歌の意味
思いやりのないものだなあ、あの人は。これほど遠い家路を帰らせることを思うと。
鑑賞
巻第四 相聞 631

詞書「湯原王の娘子に贈る歌二首 志貴皇子の子なり」
 湯原王が娘子に贈った二首の最初の歌である。遠い道をはるばる訪ねて来た自分を、逢わずに帰らせるとは思いやりのない人だと恨む。この後、湯原王と娘子との贈答が続き、機知に富んだやりとりが展開される。本巻の第六百九十二首の大伴家持の歌も「うはへなき」と歌い出し、同じ趣向をもっている。
 作者の湯原王は、志貴皇子の子で、奈良時代の歌人である。清新な歌風で知られる。

 初句「うはへなき」は、思いやりのない、愛想のないの意とされる。
 二句「ものかも人は」の「かも」は詠嘆で、ものだなあ、あの人はの意となる。ここで切れる二句切れである。
 三句「しかばかり」は、これほどの意である。
 四句「遠き家路を」は、遠い帰り道をの意である。
 結句「帰さく思へば」の「帰さく」は「帰す」のク語法で、帰らせることを思うとの意となる。

いへぢ:家へ帰る道
作者
湯原王
出典
万葉集
前の歌
初花の散るべきものを人言の 繁きによりてよどむころかも
次の歌
目には見て手には取らえぬ月の内の 楓のごとき妹をいかにせむ