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今は我はわびぞしにける息の緒に
思ひし君をゆるさく思へば

歌の意味
今となっては私はすっかり気落ちしてしまった。命をかけて思ったあなたを手放すことを思うと。
鑑賞
巻第四 相聞 644

詞書は前の歌に続き「紀女郎の怨恨の歌三首」
 命をかけて思ったあなたを手放すことを思うと、今はすっかり気落ちしてしまったと詠む歌である。夫との別れを受け入れざるをえない悲しみが率直に表れている。
 作者の紀女郎は、紀鹿人の娘で、名を小鹿といい、安貴王の妻であった。

 初句「今は我は」は六音の字余りで、今となっては私はの意である。
 二句「わびぞしにける」は、すっかり気落ちしてしまったの意で、「ぞ」を受けて連体形「ける」で結ぶ。ここで切れる二句切れである。
 三句「息の緒に」は、命をかけての意で、「息の緒」は命を表す。
 四句「思ひし君を」は、思っていたあなたをの意である。
 結句「ゆるさく思へば」の「ゆるさく」は「ゆるす」のク語法で、手放すことを思うとの意となる。

いきのを:命。命の続くこと
わぶ:気落ちする、つらく思う
作者
紀女郎
出典
万葉集
前の歌
世の中の女にしあらば我が渡る 痛背の川を渡りかねめや
次の歌
白栲の袖別るべき日を近み 心にむせひ音のみし泣かゆ