思はじと言ひてしものをはねず色の
うつろひやすき我が心かも
- 歌の意味
-
もう思うまいと言ってしまったのに、はねず色のように移ろいやすい私の心であることよ。
- 鑑賞
-
巻第四 相聞 657
詞書は前の歌に続き「大伴坂上郎女の歌六首」
もう恋しく思うまいと言ったのに、また心が揺れ動いてしまう自分を、はねず色のように移ろいやすいと嘆く歌である。色あせやすいはねず色を、自らの心の揺れにたとえている。前歌で相手の言葉を疑ったのに対し、ここでは自分の心の定まらなさを見つめている。
作者の大伴坂上郎女は、大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹にあたる。万葉集に多くの歌を残し、女流歌人として重んじられている。
初句「思はじと」の「じ」は打消意志で、思うまいとの意である。
二句「言ひてしものを」は、言ってしまったのにの意で、「ものを」は逆接を表す。
三句「はねず色の」は六音の字余りで、はねずの花の色が色あせやすいことから「うつろふ」にかかる枕詞である。
四句「うつろひやすき」は、移ろいやすいの意である。
結句「我が心かも」は、私の心であることよの意で、「かも」は詠嘆である。
はねず:庭梅とも木蓮ともいわれる植物。その花の色は色あせやすい
- 作者
-
大伴坂上郎女
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
我れのみぞ君には恋ふる我が背子が 恋ふといふことは言のなぐさぞ
- 次の歌
-
思へども験もなしと知るものを 何かここだく我が恋ひわたる