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悔しかもかく知らませばあをによし
国内ことごと見せましものを

歌の意味
悔しいことだ。こうなると知っていたなら、国中をくまなく見せておくのだったのに。
鑑賞
巻第五 雑歌 797

詞書は前の歌に続き「日本挽歌一首 反歌」
 妻がこれほど早く亡くなると知っていたなら、国中を残らず見せてやったのにと悔やむ一首である。後悔の情を初句で言い切り、反実仮想の「ませば」と「まし」で、もはやかなわない願いを痛切に表している。
 「日本挽歌」一首に添えられた反歌五首の三首目である。日本挽歌の前には、仏典の言葉を多く引いて生あるものの無常と妻を失う悲しみを述べる漢文の序と漢詩が置かれ、それに対する和文の挽歌という意味で「日本挽歌」と題される。左注に神亀五年七月二十一日、筑前国守山上憶良が奉ったとあり、大宰帥大伴旅人の妻の死を悼み、旅人の立場に立って詠んだものとみるのが通説である。
 作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。

 初句「悔しかも」の「かも」は詠嘆の終助詞で、悔しいことだと初句で言い切る初句切れである。
 二句「かく知らませば」の「ませ」は反実仮想の助動詞「まし」の未然形で、こうなると前もって知っていたならば、と仮定する。
 三句「あをによし」は、本来「奈良」にかかる枕詞で、ここでは「国内」にかかり、美しい土地をたたえる響きをもつ。
 四句「国内ことごと」の「ことごと」は残らず、すべての意である。「国内」は筑紫の国中とみる説と、奈良を中心とする大和の国中とみる説がある。
 結句「見せましものを」は、二句の「ませば」と呼応する反実仮想で、「ものを」が逆接の詠嘆を添え、果たせなかった思いを余韻として残す。

くぬち:国の内、国中
作者
山上憶良
出典
万葉集
前の歌
はしきよしかくのみからに慕ひ来し 妹が心のすべもすべなさ
次の歌
妹が見し楝の花は散りぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに