言とはぬ木にはありともうるはしき
君が手馴れの琴にしあるべし
- 歌の意味
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ものを言わない木であっても、立派なお方の、手に親しく使いならされる琴にきっとなるだろう。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 811
詞書は前の歌に続き「僕、詩詠に報へて曰く」
ものを言わない木であっても、きっと立派な方に愛用される琴となるだろうと、琴の娘子に答える一首である。琴の願いにこたえる形で、贈り先の藤原房前が必ずこの琴を大切にしてくれるだろうとの思いをこめている。
左注には、この歌に琴の娘子が、徳のあるお言葉を謹んで承り、まことに幸いですと答えたところで夢から覚めたこと、夢の言葉に感じ入って黙っていられず、公の使いに託して琴を献上するとある。天平元年十月七日付で中衛府の長官にあてた書状の形をとり、中衛大将であった藤原房前に琴を贈ったものである。
作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。
初句「言とはぬ」は、ものを言わない、の意で、琴の材である木の性質をいう。
二句「木にはありとも」の「とも」は逆接の仮定で、たとえ木であっても、と譲歩する。
三句「うるはしき」は、端正で立派な、の意で、「君」をたたえる。
四句「君が手馴れの」は、君の手に使い慣らされる、の意で、琴が大切に愛用されるさまをいう。
結句「琴にしあるべし」の「し」は強意、「べし」は確信をもった推量で、きっとそうなるはずだと琴の娘子を励ます。次の藤原房前の第八百十二首は、この歌の初句と四句をそのまま受けて答えている。
こととふ:ものを言う、話しかける
たなれ:手に慣れること、使い慣らすこと
- 作者
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大伴旅人
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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いかにあらむ日の時にかも声知らむ 人の膝の上我が枕かむ
- 次の歌
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言とはぬ木にもありとも我が背子が 手馴れの御琴地に置かめやも