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天地のともに久しく言ひ継げと
この奇し御魂敷かしけらしも

歌の意味
天地とともに久しく語り継げと、この霊妙な御魂の石を、ここに置かれたのであるらしい。
鑑賞
巻第五 雑歌 814

詞書は前の歌に続き「筑前国怡土郡深江村子負の原、海に臨める丘の上に二つの石有り」
 天地とともに久しく語り継げと、この霊妙な石をここに置かれたのであるらしいと詠む一首である。長歌で神功皇后が新羅に向かう際に懐に挿んで心を鎮めたという二つの石の由来を語ったのを受け、その石が今に伝わる意味を簡潔にまとめている。
 題詞には、深江村子負の原の海辺の丘の上に鶏卵のような形の美しい二つの石があり、道行く人は公私を問わず馬を下りてひざまずき拝むこと、古老の言い伝えでは、神功皇后が新羅を討つ際にこの石を袖の中に挿んで懐を鎮めたことが記される。左注には、この話を伝えたのは那珂郡伊知郷蓑島の人、建部牛麻呂であるとある。作者は記されていないが、山上憶良の作とみるのが通説である。鎮懐石の伝承は『古事記』や『日本書紀』にもみえる。
 作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。

 初句「天地の」は、天と地のことで、永遠に変わらないものの象徴として置かれる。
 二句「ともに久しく」は、天地とともにいつまでも、の意で、伝承の永続を願う。
 三句「言ひ継げと」は、語り伝えよ、と命じる意で、皇后の意図を推し量る。
 四句「この奇し御魂」は、霊妙な力をもつ御魂の意で、鎮懐石そのものを神聖な存在としてたたえる。
 結句「敷かしけらしも」の「敷かす」は置きなさる意の尊敬表現、「けらし」は過去の事柄を根拠をもって推定する助動詞で、皇后がこの地に置かれたのであるらしいと結ぶ。

くしみたま:霊妙な力を持つ魂。ここでは鎮懐石を指す
しく:ここでは置く、据える
作者
山上憶良(推定)
出典
万葉集
前の歌
言とはぬ木にもありとも我が背子が 手馴れの御琴地に置かめやも
次の歌
正月立ち春の来らばかくしこそ 梅を招きつつ楽しき終へめ