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梅の花散り乱ひたる岡びには
鴬鳴くも春かたまけて

歌の意味
梅の花が入り乱れて散っている岡のあたりでは、鶯が鳴いている。春を迎えて。
鑑賞
巻第五 雑歌 838

詞書は前の歌に続き「梅花の歌三十二首 并せて序」
 梅の花が入り乱れて散る岡のほとりで、春を迎えて鶯が鳴いていると詠む一首である。庭を離れて岡の景に目を広げ、落花と鶯の声で春の盛りを描いている。
 天平二年正月十三日、大宰帥大伴旅人の邸宅に大宰府の官人や九州諸国の国司らが集い、庭の梅を題に詠み合った「梅花の宴」の歌三十二首の一首である。漢文の序は、初春の令月に気は良く風は和らぎ、梅は鏡の前の白粉のように白く開き、蘭は身に帯びた香のように薫ると記し、令和の元号の典拠となったことでも知られる。序は、中国の詩文に落梅の篇があるように、園の梅を題に短歌を詠もうと結ばれている。歌の末尾に「大隅目榎氏鉢麻呂」とある。目は国司の第四等官である。
 作者の榎氏鉢麻呂は、この時大隅国の目の任にあった官人である。

 初句「梅の花」は、宴の主題である。
 二句「散り乱ひたる」の「乱ふ」は入り乱れて見分けがつかなくなる意で、花びらが乱れ散るさまを描く。
 三句「岡びには」の「岡び」は岡のあたりの意で、庭の外へと視野を広げる。
 四句「鴬鳴くも」の「も」は詠嘆で、第八百二十四首や第八百四十二首と同じ句を用いる。ここで句が切れる四句切れで、結句と倒置の関係にある。
 結句「春かたまけて」の「かたまく」は時節を待ち受ける、その時になる意で、春を迎えてと結ぶ。

まがふ:入り乱れて区別がつかなくなる
をかび:岡のあたり
かたまく:その時節を待ち受ける、時節になる
作者
榎氏鉢麻呂
出典
万葉集
前の歌
春の野に鳴くや鴬なつけむと 我が家の園に梅が花咲く
次の歌
春の野に霧立ちわたり降る雪と 人の見るまで梅の花散る