鴬の待ちかてにせし梅が花
散らずありこそ思ふ子がため
- 歌の意味
-
鶯が待ちきれない思いで待っていた梅の花よ、散らずにいてほしい。私の思う子のために。
- 鑑賞
-
巻第五 雑歌 845
詞書は前の歌に続き「梅花の歌三十二首 并せて序」
鶯が待ちわびていた梅の花に、恋しい子のために散らずにいてほしいと願う一首である。鶯の待ちわびる心と、恋人に見せたいという自分の思いとを重ねている。
天平二年正月十三日、大宰帥大伴旅人の邸宅に大宰府の官人や九州諸国の国司らが集い、庭の梅を題に詠み合った「梅花の宴」の歌三十二首の一首である。漢文の序は、初春の令月に気は良く風は和らぎ、梅は鏡の前の白粉のように白く開き、蘭は身に帯びた香のように薫ると記し、令和の元号の典拠となったことでも知られる。序は、中国の詩文に落梅の篇があるように、園の梅を題に短歌を詠もうと結ばれている。歌の末尾に「筑前拯門氏石足」とある。拯は掾と同じで、国司の第三等官である。
作者の門部石足は、この時筑前掾の任にあった官人である。
初句「鴬の」は、梅を待ちわびる存在として鶯を示す。
二句「待ちかてにせし」の「かてに」は、…しきれずに、の意で、待ちきれない思いで待っていたことをいう。
三句「梅が花」は、鶯に待たれていた花として呼びかけられる。
四句「散らずありこそ」の「こそ」は願望の終助詞で、散らずにいてほしいと願う。ここで句が切れる四句切れである。
結句「思ふ子がため」は、自分が思いを寄せる人のために、の意で、倒置によって願いの理由を最後に示して結ぶ。
こ:親しい女性を呼ぶ語
- 作者
-
門部石足
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
妹が家に雪かも降ると見るまでに ここだもまがふ梅の花かも
- 次の歌
-
霞立つ長き春日をかざせれど いやなつかしき梅の花かも