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あさりする海人の子どもと人は言へど
見るに知らえぬ貴人の子と

歌の意味
魚をとる漁師の子どもだと人は言うけれど、見ればすぐにわかった。身分の高い人の子だと。
鑑賞
巻第五 雑歌 853

詞書「松浦河に遊ぶ序」
 漁をする海人の子だと人は言うが、見ればすぐに高貴な家の子だとわかったと、娘子たちに贈った一首である。序で娘子らが自分たちを漁夫の子と謙遜したのを受け、その気品の高さをたたえている。
 「松浦河に遊ぶ序」に始まる一連の一首である。序は、作者が松浦の県に出かけて玉島の淵のほとりを散策していると、魚を釣る娘子らに出会い、その美しさは仙女のようであったこと、娘子らは漁師の子で住む里も家もないと答えながら、偕老の契りを願ったことを記す。中国の神仙小説『遊仙窟』の趣向を取り入れた虚構の物語で、大伴旅人の作とみる説が有力だが、山上憶良の作とする説もある。
 作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。

 初句「あさりする」は、魚や貝をとる意で、娘子らの暮らしぶりをいう。
 二句「海人の子どもと」は、漁師の子らであると、の意で、序で娘子らが名のった身の上を受ける。
 三句「人は言へど」は逆接で、人はそう言うけれど、と次へ転じる。
 四句「見るに知らえぬ」の「知らえ」は自然にわかる意で、「ぬ」は完了である。見るとすぐにわかったと言い切り、ここで句が切れる四句切れである。
 結句「貴人の子と」は、身分の高い人の子であると、の意で、倒置によって娘子らの気品を最後に示して結ぶ。次の娘子の答歌の第八百五十四首は、その身の上について、家は玉島の川上にあると答えている。

あさる:魚や貝などをとる
あま:漁師、海で漁をする人
うまひと:身分の高い人、貴人
作者
大伴旅人(推定)
出典
万葉集
前の歌
梅の花夢に語らくみやびたる 花と我れ思ふ酒に浮かべこそ
次の歌
玉島のこの川上に家はあれど 君をやさしみあらはさずありき