玉島のこの川上に家はあれど
君をやさしみあらはさずありき
- 歌の意味
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玉島のこの川上に家はあるけれど、あなたに対して気恥ずかしくて、明かさずにいたのです。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 854
詞書は前の歌に続き「答ふる詩に曰く」
玉島川の川上に家はあるのだが、あなたの前では気恥ずかしくて明かさなかったと、娘子らが答える一首である。序で家も里もないと答えた娘子らが、実は家があると打ち明ける形で、物語を恋のやりとりへと進めている。
この歌は物語の中で娘子らが詠んだ形をとるが、物語全体の作者の手になるものである。
「松浦河に遊ぶ序」に始まる一連の一首である。序は、作者が松浦の県に出かけて玉島の淵のほとりを散策していると、魚を釣る娘子らに出会い、その美しさは仙女のようであったこと、娘子らは漁師の子で住む里も家もないと答えながら、偕老の契りを願ったことを記す。中国の神仙小説『遊仙窟』の趣向を取り入れた虚構の物語で、大伴旅人の作とみる説が有力だが、山上憶良の作とする説もある。
作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。
初句「玉島の」は、松浦郡を流れる玉島川の一帯を指す。
二句「この川上に」は、この川の上流に、の意で、娘子らの家のありかを示す。
三句「家はあれど」は、家はあるけれど、の意で、序で家も里もないと答えたことを打ち消している。
四句「君をやさしみ」の「やさし」は身も細るほど恥ずかしい意で、「み」は理由を表す。あなたに対して気恥ずかしいので、の意である。
結句「あらはさずありき」の「き」は過去の助動詞で、明かさずにいたと告白して結ぶ。
かはかみ:川の上流
- 作者
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大伴旅人(推定)
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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あさりする海人の子どもと人は言へど 見るに知らえぬ貴人の子と
- 次の歌
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松浦川川の瀬光り鮎釣ると 立たせる妹が裳の裾濡れぬ