古典和歌stream

松浦川川の瀬光り鮎釣ると
立たせる妹が裳の裾濡れぬ

歌の意味
松浦川の川の瀬がきらきらと光り、鮎を釣ろうと立っておられるあなたの裳の裾が濡れている。
鑑賞
巻第五 雑歌 855

詞書「蓬客等の更に贈る歌三首」
 松浦川の瀬が光る中、鮎を釣ろうと立つ娘子の裳の裾が濡れていると詠む一首である。水にきらめく川瀬と娘子の姿を鮮やかに描き、仙女のような娘子への思慕をこめている。
 題詞の「蓬客」は、蓬のようにさすらう旅人の意で、序の語り手である作者自身をへりくだっていう。
 「松浦河に遊ぶ序」に始まる一連の一首である。序は、作者が松浦の県に出かけて玉島の淵のほとりを散策していると、魚を釣る娘子らに出会い、その美しさは仙女のようであったこと、娘子らは漁師の子で住む里も家もないと答えながら、偕老の契りを願ったことを記す。中国の神仙小説『遊仙窟』の趣向を取り入れた虚構の物語で、大伴旅人の作とみる説が有力だが、山上憶良の作とする説もある。
 作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。

 初句「松浦川」は、玉島川を含む松浦の川をいい、物語の舞台を示す。
 二句「川の瀬光り」は、川の浅瀬が日を受けて光るさまで、明るい景を描く。
 三句「鮎釣ると」は、鮎を釣ろうとして、の意で、序の釣りをする娘子の姿を受ける。
 四句「立たせる妹が」の「せ」は尊敬の助動詞「す」で、娘子を敬っていう。
 結句「裳の裾濡れぬ」は、裳の裾が川の水に濡れた、の意で、娘子のなまめかしさを印象づけて結ぶ。後の追和の第八百六十一首は「紅の裳の裾濡れて」とこの句を受けている。

も:女性が腰から下にまとう衣
せ:川の浅瀬
作者
大伴旅人(推定)
出典
万葉集
前の歌
玉島のこの川上に家はあれど 君をやさしみあらはさずありき
次の歌
松浦なる玉島川に鮎釣ると 立たせる子らが家道知らずも