松浦川七瀬の淀は淀むとも
我れは淀まず君をし待たむ
- 歌の意味
-
松浦川の七つの瀬の淀みは淀むとしても、私はためらわずに、あなたをお待ちしよう。
- 鑑賞
-
巻第五 雑歌 860
詞書は前の歌に続き「娘等の更に報ふる歌三首」
松浦川の多くの瀬の淀みは淀むとしても、私はためらうことなくあなたを待とうと誓う一首である。川の「淀」と心の「淀む」を重ね、娘子の一途な思いを表して三首の答歌を結んでいる。
題詞に「娘等の更に報ふる歌三首」とあり、蓬客の三首に娘子らが答えた形をとるが、物語全体の作者の手になるものである。
「松浦河に遊ぶ序」に始まる一連の一首である。序は、作者が松浦の県に出かけて玉島の淵のほとりを散策していると、魚を釣る娘子らに出会い、その美しさは仙女のようであったこと、娘子らは漁師の子で住む里も家もないと答えながら、偕老の契りを願ったことを記す。中国の神仙小説『遊仙窟』の趣向を取り入れた虚構の物語で、大伴旅人の作とみる説が有力だが、山上憶良の作とする説もある。
作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。
初句「松浦川」は、第八百五十五首の初句と同じで、蓬客の贈歌に応じる。
二句「七瀬の淀は」の「七瀬」は多くの瀬、「淀」は水のよどむ所をいう。
三句「淀むとも」は、淀んでとどまるとしても、と逆接の仮定で次へ転じる。
四句「我れは淀まず」は、自分は心がとどこおらず、ためらわない、の意で、川の淀と心の淀を対比する。「淀」の語を三度繰り返して調子を整えている。
結句「君をし待たむ」の「し」は強意、「む」は意志で、あなたをこそ待とうと誓って結ぶ。
よど:川の水がよどむ所
よどむ:水が流れずにとどまる。心がためらう意にも用いる
ななせ:多くの瀬
- 作者
-
大伴旅人(推定)
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
春されば我家の里の川門には 鮎子さ走る君待ちがてに
- 次の歌
-
松浦川川の瀬早み紅の 裳の裾濡れて鮎か釣るらむ