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松浦川川の瀬早み紅の
裳の裾濡れて鮎か釣るらむ

歌の意味
松浦川の川の瀬が速いので、紅の裳の裾を濡らして、娘子らは今ごろ鮎を釣っているのだろうか。
鑑賞
巻第五 雑歌 861

詞書「後の人の追和する詩三首 帥老」
 松浦川の瀬の流れが速いので、今ごろ娘子らは紅の裳の裾を濡らして鮎を釣っているだろうかと思いやる一首である。物語の外に立つ後の人の立場から、遠い玉島の娘子らの姿を想像して詠んでいる。
 題詞に「後の人の追和する詩三首」とあり、「帥老」の注記から、大宰帥の老人すなわち大伴旅人が、松浦河の物語の歌に後から和した作であることがわかる。物語の登場人物ではなく、それを聞いた後の人という立場を設けて詠むところに、虚構を楽しむ趣向がある。
 作者の大伴旅人は、大納言大伴安麻呂の子で、大伴家持の父である。神亀年間の末に大宰帥として筑紫に下り、天平二年に大納言となって帰京し、翌年に没した。漢詩文や老荘思想に通じ、大宰府で山上憶良らと文雅の交わりを結び、その集まりは筑紫歌壇と呼ばれる。

 初句「松浦川」は、第八百五十五首の初句と同じで、物語の歌に唱和することを示す。
 二句「川の瀬早み」の「み」は理由を表し、瀬の流れが速いので、の意である。第八百五十五首の「川の瀬光り」を受けている。
 三句「紅の」は、紅色の裳をいい、娘子の姿に鮮やかな色彩を添える。
 四句「裳の裾濡れて」は、第八百五十五首の結句「裳の裾濡れぬ」を受け、状況を想像する形に改めている。
 結句「鮎か釣るらむ」の「か」は疑問の係助詞、「らむ」は目の前にない現在の事柄を推量する助動詞で、遠い地の娘子らを思いやって結ぶ。

も:女性が腰から下にまとう衣
作者
大伴旅人
出典
万葉集
前の歌
松浦川七瀬の淀は淀むとも 我れは淀まず君をし待たむ
次の歌
人皆の見らむ松浦の玉島を 見ずてや我れは恋ひつつ居らむ