松浦県佐用姫の子が領巾振りし
山の名のみや聞きつつ居らむ
- 歌の意味
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松浦県の佐用姫が領巾を振ったという山の名だけを、私は聞き続けているのだろうか。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 868
詞書「憶良、誠惶頓首謹みて啓す」
松浦の佐用姫が領巾を振ったという山の、名ばかりを聞いて過ごすのだろうかと嘆く一首である。松浦の地を訪れることができず、名高い伝説の地を話に聞くだけの身をもどかしく思う心を表している。
題詞の書簡で憶良は、国の長官や大宰府の長官は定めに従って管内を巡行し、その風俗を視察するものと聞いているが、心に思うことは多くても口には出しがたいので、謹んで三首の歌によって胸の内のふさぎを晴らしたいと述べる。旅人が松浦の地を巡行したのに、憶良は同行できなかったことを嘆く歌とみられている。左注に天平二年七月十一日、筑前国司山上憶良が謹んで奉ったとある。
作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。
初句「松浦県」は、肥前国松浦郡の地をいい、「県」は地方の行政区域を指す。
二句「佐用姫の子が」の「子」は親しみをこめて女性を呼ぶ語で、伝説の松浦佐用姫をいう。
三句「領巾振りし」は、佐用姫が去っていく夫の船に向かって領巾を振ったという伝説をふまえる。
四句「山の名のみや」の「のみ」は限定、「や」は疑問の係助詞で、結句の「む」と呼応する。
結句「聞きつつ居らむ」は、聞き続けているばかりなのだろうか、の意で、実際に訪れられない嘆きを結ぶ。
ひれ:女性が首や肩にかけて左右に垂らす細長い布
あがた:地方、田舎の地
- 作者
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山上憶良
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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君が行き日長くなりぬ奈良道なる 山斎の木立も神さびにけり
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足姫神の命の魚釣らすと み立たしせりし石を誰れ見き