古典和歌stream

天飛ぶや鳥にもがもや都まで
送りまをして飛び帰るもの

歌の意味
空を飛ぶ鳥であればよいのに。都までお送り申し上げて、飛んで帰って来られるものを。
鑑賞
巻第五 雑歌 876

詞書「書殿にて餞酒する日の倭歌四首」
 空を飛ぶ鳥であったなら、都までお見送りして飛んで帰って来られるのにと詠む一首である。任地を離れられない身で、せめて鳥となって帰京する旅人を送りたいという惜別の情を表している。
 題詞に「書殿にて餞酒する日の倭歌四首」とある。天平二年の冬、大納言に任じられて帰京する大伴旅人のために、大宰府の書殿で開かれた送別の宴での和歌で、「倭歌」は漢詩に対して和歌をいう。作者は記されていないが、続く三首と同じく山上憶良の作とみるのが通説である。
 作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。

 初句「天飛ぶや」は「鳥」にかかる枕詞で、「や」は語調を整える間投助詞である。
 二句「鳥にもがもや」の「もがも」は願望の終助詞で、鳥であったらよいのにと願う。ここで句が切れる二句切れである。
 三句「都まで」は、旅人の帰る奈良の都までをいう。
 四句「送りまをして」の「まをす」は謙譲の語で、お送り申し上げて、の意である。
 結句「飛び帰るもの」は、飛んで帰ってくるものを、の意で、鳥ならばできることを述べて、かなわぬ願いの余韻を残して結ぶ。

まをす:申し上げる。謙譲の意を添える
作者
山上憶良(推定)
出典
万葉集
前の歌
行く船を振り留みかねいかばかり 恋しくありけむ松浦佐用姫
次の歌
ひともねのうらぶれ居るに竜田山 御馬近づかば忘らしなむか