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国遠き道の長手をおほほしく
今日や過ぎなむ言どひもなく

歌の意味
故郷から遠い長い道のりの途中で、心も晴れぬまま、今日死んでいくのだろうか。親と言葉を交わすこともなく。
鑑賞
巻第五 雑歌 884

詞書「大伴君熊凝の歌二首 大典麻田陽春の作」
 故郷から遠く離れた長い旅路で、心晴れぬまま、親と言葉を交わすこともなく今日死んでいくのかと、死にゆく熊凝の嘆きを代弁した一首である。
 大伴君熊凝は肥後国益城郡の人で、天平三年六月、十八歳で相撲使の国司の従者として都へ向かう途中、安芸国佐伯郡の高庭の駅家で病に倒れて亡くなった。麻田陽春はその死を悼み、熊凝の立場に立って二首を詠んだ。これに続いて山上憶良も、熊凝の思いを述べる歌六首を和している。
 作者の麻田陽春は、百済系の渡来人の子孫で、もとの姓を答本といい、のちに麻田連の姓を賜った。この時は大宰府の大典の任にあり、漢詩集『懐風藻』に詩を残している。

 初句「国遠き」は、故郷から遠い、の意である。
 二句「道の長手を」の「長手」は長い道のりで、旅の途上にあることをいう。
 三句「おほほしく」は、心が晴れずぼんやりと沈んでいるさまをいう。
 四句「今日や過ぎなむ」の「や」は疑問の係助詞、「過ぐ」はこの世を去る意で、「なむ」で結ぶ係り結びである。今日死んでいくのだろうかと問う。
 結句「言どひもなく」は、言葉を交わすこともなく、の意で、倒置によって、親と最後の言葉も交わせない無念を示して結ぶ。

ながて:長い道のり
ことどひ:言葉を交わすこと
すぐ:ここでは死ぬ、この世を去る
作者
麻田陽春
出典
万葉集
前の歌
音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が 領巾振りきとふ君松浦山
次の歌
朝露の消やすき我が身他国に 過ぎかてぬかも親の目を欲り