慰むる心はなしに雲隠り
鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ
- 歌の意味
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心を慰めるすべもなく、雲に隠れて鳴いて飛んでいく鳥のように、声をあげて泣けてくるばかりだ。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 898
詞書は前の歌に続き「老身に病を重ね、年を経て辛苦し、及び児等を思ふ歌七首 長一首短六首」
慰めを得られる心もなく、雲間に隠れて鳴いていく鳥のように、ただ声をあげて泣くばかりだと嘆く一首である。長歌の結びの「音のみし泣かゆ」をそのまま受け、行き場のない悲しみを鳥の姿に重ねている。
老いた身に重い病を得て年を経て苦しみ、また子らを思う歌七首のうちの短歌で、七首は長歌一首と短歌六首からなる。長歌では、人の命の限りは平穏であってほしいのに、老いの身に病まで加わって、昼は嘆き夜はため息をつき、いっそ死のうと思っても騒ぐ子らを捨てては死ねないと嘆く。左注に天平五年六月三日の作とある。
作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。
初句「慰むる」は、心を慰める、の意で、次の「心」にかかる。
二句「心はなしに」は、慰められる心もなく、の意である。
三句「雲隠り」は、雲に隠れて、の意で、次の「鳴き行く鳥」の姿を描く。三句と四句は結句の「音」を導く序詞の働きをしている。
四句「鳴き行く鳥の」は、鳴きながら飛んでいく鳥のように、の意である。
結句「音のみし泣かゆ」の「音」は声、「ゆ」は自発の助動詞で、ただ声をあげて泣けてくると結ぶ。長歌の結句と同じ句である。
ね:声、泣き声
くもがくる:雲に隠れる
- 作者
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山上憶良
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば 紐解き放けて立ち走りせむ
- 次の歌
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すべもなく苦しくあれば出で走り 去ななと思へどこらに障りぬ