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すべもなく苦しくあれば出で走り
去ななと思へどこらに障りぬ

歌の意味
どうしようもなく苦しいので、家を走り出て死んでしまおうと思うけれど、子どもたちに妨げられてしまった。
鑑賞
巻第五 雑歌 899

詞書は前の歌に続き「老身に病を重ね、年を経て辛苦し、及び児等を思ふ歌七首 長一首短六首」
 どうしようもなく苦しいので、家を飛び出して死んでしまおうと思うが、子どもたちに引き留められてしまうと詠む一首である。死を思うほどの苦しみと、子への愛情との板挟みを率直に表している。
 老いた身に重い病を得て年を経て苦しみ、また子らを思う歌七首のうちの短歌で、七首は長歌一首と短歌六首からなる。長歌では、人の命の限りは平穏であってほしいのに、老いの身に病まで加わって、昼は嘆き夜はため息をつき、いっそ死のうと思っても騒ぐ子らを捨てては死ねないと嘆く。左注に天平五年六月三日の作とある。
 作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。

 初句「すべもなく」は、どうしようもなく、の意である。
 二句「苦しくあれば」は、苦しいので、と理由を示す。
 三句「出で走り」は、家を走り出て、の意である。
 四句「去ななと思へど」の「去ぬ」は去る、ここでは死ぬ意で、「な」は意志の終助詞である。死んでしまおうと思うけれど、と転じる。
 結句「こらに障りぬ」の「こら」は子どもたちで、「障る」は妨げられる意である。長歌の「騒く子どもを打棄てては死には知らず」を受け、子への思いが死を思いとどまらせることを示して結ぶ。

いぬ:去る。ここではこの世を去る
さやる:妨げられる、ひっかかる
作者
山上憶良
出典
万葉集
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慰むる心はなしに雲隠り 鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ
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富人の家の子どもの着る身なみ 腐し捨つらむ絹綿らはも