荒栲の布衣をだに着せかてに
かくや嘆かむ為むすべをなみ
- 歌の意味
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粗末な布の着物さえも子に着せてやれずに、このように嘆くのだろうか。どうしようもなくて。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 901
詞書は前の歌に続き「老身に病を重ね、年を経て辛苦し、及び児等を思ふ歌七首 長一首短六首」
粗末な布の着物さえ子どもに着せてやれず、どうしようもなく嘆くばかりなのかと詠む一首である。前歌の富める家の絹綿との対比によって、子に何もしてやれない親の無力さを痛切に表している。
老いた身に重い病を得て年を経て苦しみ、また子らを思う歌七首のうちの短歌で、七首は長歌一首と短歌六首からなる。長歌では、人の命の限りは平穏であってほしいのに、老いの身に病まで加わって、昼は嘆き夜はため息をつき、いっそ死のうと思っても騒ぐ子らを捨てては死ねないと嘆く。左注に天平五年六月三日の作とある。
作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。
初句「荒栲の」は、目の粗い布の意で、「布」にかかる枕詞である。
二句「布衣をだに」の「布衣」は麻などで織った粗末な着物で、「だに」はせめて…さえの意である。前歌の「絹綿」と対比される。
三句「着せかてに」は、着せることができずに、の意である。
四句「かくや嘆かむ」の「や」は疑問の係助詞で、「む」で結ぶ係り結びである。ここで句が切れる四句切れである。
結句「為むすべをなみ」は、どうしようもないので、の意で、倒置によって嘆きの理由を示して結ぶ。
ぬのきぬ:麻などの布で作った粗末な着物
すべ:手段、方法
- 作者
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山上憶良
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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富人の家の子どもの着る身なみ 腐し捨つらむ絹綿らはも
- 次の歌
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水沫なすもろき命も栲縄の 千尋にもがと願ひ暮らしつ