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布施置きて我れは祈ひ祷むあざむかず
直に率行きて天道知らしめ

歌の意味
布施を供えて私はお祈りする。惑わすことなく、まっすぐに連れて行って、天への道を教えてやってください。
鑑賞
巻第五 雑歌 906

詞書は前の歌に続き「男子名は古日に恋ふる歌三首 長一首短二首」
 布施を供えて祈るので、子を惑わせずまっすぐに連れて行き、天への道を教えてほしいと願う一首である。前歌の黄泉の使いへの頼みに続き、仏への布施によって子の往生を願う心を表し、巻第五を結んでいる。
 古日という名の男の子の死を悲しむ歌で、長歌一首と短歌二首からなる。長歌では、世の人が尊ぶ七種の宝よりも大切な我が子古日が、朝は床のそばを離れずともに戯れ、夕べには父母の間に寝ようと言っていたのに、思いがけず病にかかり、天地の神に祈ってもかいなく、ついに命を落としたことを、身をよじるような悲嘆とともに述べる。左注には、作者は未詳だが歌の作りぶりが山上憶良の作風に似ているので、ここに載せたとある。
 巻頭の第七百九十三首が世間の空しさへの悲しみで始まったのに対し、本巻は子を失った親の祈りで閉じられ、死別の悲しみという主題で首尾が呼応している。

 初句「布施置きて」は、仏や僧に供える布施を置いて、の意で、仏教の供養の作法をいう。
 二句「我れは祈ひ祷む」の「祈ひ祷む」は、神仏に祈り願う意で、ここで句が切れる二句切れである。長歌の「我れ祈ひ祷めど」を受ける。
 三句「あざむかず」は、惑わせることなく、だますことなく、の意である。
 四句「直に率行きて」は、まっすぐに連れて行って、の意である。
 結句「天道知らしめ」の「天道」は天上への道で、「しめ」は使役の命令で、教えてやってくれと願って結ぶ。前歌の地下の「黄泉」に対して天上への道を願い、上下の対比をなしている。

ふせ:仏や僧に供える金品
こひのむ:神仏に祈り願う
あまぢ:天へ昇る道
ゐる:連れる、率いる
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
若ければ道行き知らじ賄はせむ 黄泉の使負ひて通らせ
次の歌
年のはにかくも見てしかみ吉野の 清き河内のたぎつ白波