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あしひきの山にも野にも御狩人
さつ矢手挟み騒きてあり見ゆ

歌の意味
山にも野にも、御狩に従う人々がさつ矢を手に挟み持って、騒いでいるのが見える。
鑑賞
巻第六 雑歌 927

詞書は前の歌に続き「反歌一首」
 山にも野にも、天皇の狩りに従う人々が狩猟用の矢を手に挟み持ち、にぎやかに動き回っている様子が見えると詠む歌である。狩りに加わる人々の活気を描くことで、天皇の御狩の盛大さを讃えている。
 直前の長歌(第九百二十六首)は「山部宿祢赤人が作る歌二首」の二首目で、み吉野の秋津の小野で、朝には獣を、夕には鳥を追い立てて行われる天皇の狩りのさまを描き、「馬並めて御狩ぞ立たす春の茂野に」と結んでいる。本歌はその光景を一望のもとにとらえて反歌としている。
 左注には「右は先後を審らかにせず。ただし便の故を以てこの次に載す」とある。この長歌と反歌が前の長歌(第九百二十三首)の前後いずれに作られたかは不明であるが、便宜上ここに載せたという編者の注記である。
 作者の山部赤人は奈良時代前期の宮廷歌人で、聖武天皇の時代を中心に行幸に従い、多くの歌を残した。官位や経歴は明らかでないが、清らかな叙景歌に優れ、古今和歌集の仮名序では柿本人麻呂と並び称されている。

 本歌の下の句にある「騒きてあり見ゆ」は、本巻の第九百二十四首の「ここだも騒く」と「騒く」の語を共有しており、鳥の声のにぎわいから人々の狩りのにぎわいへと、同じ吉野の宮の歌が連なっている。
 初句「あしひきの」は、「山」にかかる枕詞である。
 二句「山にも野にも」は、山にも野にもの意で、係助詞「も」を重ねて、狩りの場の広がりを示している。長歌の「み山」と「秋津の小野」を受けている。
 三句「御狩人」は、天皇の狩りに従う人々の意で、「御」は天皇の狩りであることを示す敬意の接頭語である。
 四句「さつ矢手挟み」は、狩猟用の矢を手に挟み持っての意で、狩りに臨む人々の姿を具体的に描いている。
 結句「騒きてあり見ゆ」は、騒いでいる様子が見えるの意である。字余りの句で、「見ゆ」によって、遠くから狩りの全景を見渡している視点が示されている。

みかりひと:天皇の狩りに従う人
さつや:狩猟に用いる矢
たばさむ:手に挟んで持つ
さわく:大勢が動き回ってにぎやかにする
作者
山部赤人
出典
万葉集
前の歌
ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる 清き川原に千鳥しば鳴く
次の歌
荒野らに里はあれども大君の 敷きます時は都となりぬ