大君の境ひたまふと山守据ゑ
守るといふ山に入らずはやまじ
- 歌の意味
-
大君が境をお定めになるというので、山番を置いて守っているという山に、入らないではおかない。
- 鑑賞
-
巻第六 雑歌 950
詞書「五年戊辰、難波の宮に幸せる時に作る歌四首」
大君が境を定め、山守を置いて守らせているという山であっても、入らずにはおかないと詠む歌である。題詞によれば、神亀五年(728)、聖武天皇が難波の宮に行幸した折に詠まれた四首の一つである。四首はいずれも行幸の讃歌ではなく、恋の思いを山や玉や松などに託して詠んだ歌となっている。
禁じられた山に入る決意を述べる形をとりながら、人が大切に守っている女性を何としても手に入れようとする恋の思いを、山にたとえて詠んだものと解されている。
左注に「右は、笠朝臣金村が歌の中に出づ。或いは云はく、車持朝臣千年が作なりと」とあり、笠金村の歌集に収められていたが、車持千年の作とする伝えもあって、作者は定まらない。笠金村、車持千年はともに元正天皇から聖武天皇の時代にかけて行幸に従った宮廷歌人である。
本歌の結句「入らずはやまじ」と、次歌の第九百五十一首の結句「取らずはやまじ」は、同じ「ずはやまじ」の形を共有し、守られた山に入る、岩陰の玉を取るという二つのたとえで、手の届きがたいものを求める決意を重ねている。
初句「大君の」は、天皇がの意で、山を守らせている主体の重さを示している。
二句「境ひたまふと」は、境界をお定めになるというのでの意で、「たまふ」は尊敬の補助動詞である。山が天皇の定めによる禁域であることを述べている。
三句「山守据ゑ」は、山番を置いての意である。六音の字余りの句で、山が厳重に守られている様子を示している。
四句「守るといふ山に」は、見張って守っているという山にの意で、「といふ」によって、人づてに聞く禁域であることを表している。
結句「入らずはやまじ」は、入らないではおかないの意で、強い意志を表している。二句から四句で重ねて示した禁制の厳しさが、この決意をいっそう際立たせている。
やまもり:山の番人。山への立ち入りを見張る者
すう:据える、置く
さかふ:境界を定める
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に 遊びしことを宮もとどろに
- 次の歌
-
見わたせば近きものから岩隠り かがよふ玉を取らずはやまじ